行政のデジタル化推進やAI技術の進歩により、チャットボットの導入や実証実験を行う自治体が増えてきました。
チャットボットとは、チャット上のテキストに自動回答するプログラムのことで、自治体では主に住民の問い合わせに対応するサービスとして活用されています。
チャットボットは自治体サービスとの相性が良く、住民と職員の双方にメリットをもたらすことが分かっており、国が実証実験を推進するなど、多くの自治体での導入が期待されています。
しかし、これからデジタル・AI化を進めようとする自治体にとってチャットボットは未知の部分が大きいですよね。
そこでこの記事では、
- 自治体がチャットボットを導入するメリット
- チャットボットを活用している自治体の最新データ
- 導入事例10例(「問い合わせ・サービス」「子育て支援」「観光・PR」の3つのテーマ別)
- 自治体向けのチャットボットサービス5選
をまとめてご紹介します。さらに自治体がチャットボットを活用するときに押さえておくべきポイントや導入後の注意点なども取り上げます。
この記事を最後まで読めば「自分の自治体でチャットボットを導入すべきか」の判断ができるようになります。チャットボットが気になっている方はぜひ参考にしてください。
1. なぜ自治体がチャットボットを導入するのか?5つのメリット
まず初めに「なぜ自治体がチャットボットを導入するのか」を理解しておきましょう。
自治体がチャットボットを導入する理由は、次の5つのメリットが得られるからです。
- ① 比較的導入しやすい
- ② 24時間365日対応できる
- ③ 人件費削減につながる
- ④ 多言語に対応できる
- ⑤ 住民の満足度向上が期待できる
それぞれ順番にお話していきます。
1-1.【導入メリット①】比較的導入しやすい
チャットボットは他のAIプログラムに比べると、導入しやすいのが特徴です。
他のAIプログラムは「費用対効果が出にくい」「データ整備が難しい」など、さまざまな問題があり、本格導入にはどうしても時間がかかります。
しかしチャットボットは、すでに商用化されている自治体向けのチャットボットサービスを使うことで、比較的簡単に実用化ができます。費用や作業面での負担も、複数の自治体で共通のシステムを導入することで解決が可能です。
1-2.【導入メリット②】24時間365日対応できる
2つ目のメリットは24時間365日の対応ができることです。
役所をはじめとする自治体の窓口は、平日の日中のみの受け付けが基本。平日の昼間に働いている人は、なかなか利用しにくいですよね。
しかしチャットボットが導入されると、住民はこれまで窓口や電話で問い合わせていた「きちんと知りたい重要なこと」を自分の都合の良い時間に確認できるようになります。
「申請に必要な書類は?」「予防接種はいつ?」などの疑問を、その場ですぐに解決できるのは助かりますよね。問い合わせサービスでチャットボットが導入されると、住民の利便性が飛躍的に向上します。
1-3.【導入メリット③】人件費節約につながる
3つ目のメリットは、人件費の節約につながることです。
職員が行う問い合わせ業務をチャットボットに任せることで、職員は別の業務を担当できます。
また職員の場合はマンツーマンでの対応が基本となりますが、チャットボットは同時に多数の問い合わせに対応できます。チャットボットを電話問い合わせの前段階に導入することで、「電話がつながらない」という事態の回避も可能です。
チャットボットがあれば多数の問い合わせに対しても業務過多になることなく対応できるので、職員の負担を減らせるでしょう。
1-4.【導入メリット④】多言語に対応できる
4つ目のメリットは、多言語に対応できることです。
年々増加する外国人旅行者や外国からの移住者の満足度を上げるためには、どうしても多言語での対応が必要になります。
多言語を使いこなす職員を採用したり、育成したりするには、時間的コスト・人的コストがかかりますよね。しかし多言語に対応したチャットボットがあれば、外国人観光客や住民の方のニーズを満たすことができます。
チャットボットの中には、英語・中国語・韓国語をはじめ、タイ語・イタリア語・ドイツ語・フランス語など20ヶ国以上の言語に対応可能なものもあります。多言語に対応できるチャットボットがあれば、自治体の魅力を外国の方にPRすることもできます。
1-5.【導入メリット⑤】住民の満足度向上が期待できる
5つ目のメリットは、住民の満足度向上が期待できることです。
電話での問い合わせは「こんな小さなことを聞いても迷惑では?」と気を遣ったり、「どうやって説明したらいいの?」とストレスを感じたりすることもありますよね。
しかしチャットボットが相手だと自分のタイミングで気軽に利用できるので、住民に不要なストレスを与えません。チャットボットの操作自体も簡単で、スマートフォンの普及に伴い、老若男女問わず利用できる点も大きいでしょう。
チャットボット選定で“絶対に外せない”3つの確認ポイントとは?
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- 選定候補のAIチャットボットを客観的に比較する事
- 実機トライアルで準備・確認すべき事
- 自社に最適なサービスを見つけ、失敗せずに導入する事
2. チャットボットを活用している自治体の最新データ
次に、実際にチャットボットを活用している自治体について詳しく見ていきましょう。
ここでは総務省のデータを基に「自治体のチャットボット導入数」「チャットボットの業務例」を取り上げます。
総務省が実施した「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」令和元年5月によると、AIを導入した106の自治体のうち、半数を上回る55の自治体がチャットボットを活用していることが分かりました。
▼AIの機能別導入状況 ※複数回答可
導入済団体数 | チャットボットによる応答 (行政サービスの案内) | |
都道府県 | 17 | 4 |
指定都市 | 12 | 9 |
その他の市区町村 | 77 | 42 |
合計 | 106 | 55 |
参考:「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」令和元年5月
地方自治体がチャットボットを導入している業務例は以下の通りです。
<地方自治体のチャットボット業務例>
- チャットボットによる行政サービスの案内
- 多言語AIチャットボットサービス
- LINEを活用した対話型サービス
- 子育て相談のためのAIを活用したチャット窓口の開設
- 観光・文化・都市経営情報の総合窓口コンシェルジュ
- AIを活用した移住・定住に関する自動対話型のFAQ機能
出典:地方自治体におけるAI・RPAの 実証実験・導入状況等調査(p7)
チャットボットは導入前に実証実験を行うケースがよく見られます。
企業や複数の自治体で共同して実証実験を行い、その結果をもとに導入の可否を判断することもあるようです。
最近では総務省が業務のデジタル化を推進する「スマート自治体」の実現に向けた取り組みの1つとして、都道府県や地方自治体でチャットボットの実証実験を行っています。
3. 自治体のチャットボット活用事例|問い合わせ・サービス5事例
それでは自治体がどのようにチャットボットを活用しているのか実際の事例をご紹介します。本章では問い合わせ・サービスに特化した活用を行っている5例を取り上げます。
- ①【福島県会津若松市】LINE de ちゃチャット問い合わせサービス
- ②【神奈川県横浜市】イーオのごみ分別案内
- ③【神奈川県海老名市】WebとLINEの双方で導入
- ④【東京都港区】多言語AIチャットサービス
- ⑤【埼玉県】AI救急相談
3-1.【福島県会津若松市】LINE de ちゃチャット問い合わせサービス
出典:データを活用したAIチャットボット 「LINE de ちゃチャット問い合わせサービス」の取組|会津若松市
福島県会津若松市では、市民が気軽に問い合わせできる窓口としてLINEを活用したAIチャットボットサービスを実施しています。
市民は24時間365日「休日・夜間診療」や「ごみの出し方」「各種証明書の発行手続き」のほか、「除雪車の運行状況」などLINEのチャット上で問い合わせできます。同サービスは市民からのアンケート結果で80%以上の高評価を獲得。市民の利便性が向上しただけでなく、職員も軽減することができました。
- 土日や夜間の問い合わせがしたいという市民からの要望があった
- ホームページが見にくい
- 電話での問い合わせが減らない
- 職員が他の業務に注力できるようになった
- 市民からのアンケート結果で80%以上の高評価
- チャットボットによる問い合わせ内容や件数を分析し、今後の施策への活用できるようになった
参考:
会津若松+(プラス)「LINE de ちゃチャット問い合わせサービス」がはじまっています
地方自治体における新たな技術の活用状況について
3-2.【神奈川県横浜市】イーオのごみ分別案内
出典:AIを活用したチャットボット「イーオのごみ分別案内」
AIチャットボットの導入で大きな成果上げたのが横浜市です。
AIを活用したチャットボット「イーオのごみ分別案内」では、ごみの名前などを話しかけると分別品目や出し方を教えてくれるだけでなく、粗大ごみの手数料の確認から申し込みまで行えます。
イーオのごみ分別は2万語に対応し、クイズや雑学も可能。質問によっては哲学的な回答を返すなど、メディアでも話題になりました。
- ライフスタイルの多様化や年間14万人の転入者を抱え、本来分別すべき資源物が15%混入するなど、ごみの不適正排出が課題
- 導入後10か月で203万件の利用
- 30以上のメディアで掲載される
- コールセンター営業時間外の利用数が5割
- コールセンターと比較して100分の1のランニングコスト
参考:
AIを活用したチャットボット「イーオのごみ分別案内」|総務省
粗大ごみの出し方の詳細|横浜市公式サイト
3-3.【神奈川県海老名市】AI非搭載のチャットボットをWebとLINEの双方で導入
出典:チャットボット案内サービス|海老名市公式ウェブサイト
神奈川県海老名市では、県内で初めて公式WebサイトとLINE双方にチャットボットを導入しました。
チャットボットの画面下メニューには「健康」「ごみ出し・分別」「届け出・証明」「子育て」「市の紹介」のカテゴリーがあり、選択しながら会話を進めていくと知りたい情報が得られる仕組みです。
海老名市のチャットボットはAI非搭載。あらかじめ登録してある想定問答に対応するシステムです。チャットボットの回答は海老名市の公式Webサイトを表示します。
公式Webサイトはたくさんの情報を扱うため、調べ物が見つかりにくい側面がありますが、チャットボットの導入で市民は欲しい情報に素早くアクセスできるようになりました。
フリーワード検索には弱いという欠点がありながらも、公式Webサイトのコンテンツをデータベースとして活用することでチャットボットの開発時間の短縮を実現しています。
参考:
チャットボット案内サービス|海老名市公式ウェブサイト
市民の質問に自動回答 海老名市が「チャットボット」導入|カナロコ
3-4.【東京都港区】多言語AIチャットサービス
出典:多言語AIチャットによる外国人向け情報発信を行っています!|港区
約2万人の外国人が居住する東京都港区では、外国人が安心・安全な生活ができるようにAIを活用した多言語チャットサービスを実施しています。
このサービスはFacebookのメッセンジャー機能を通じて利用するものです。外国人が生活上で生じる疑問や行政情報の問い合わせに、AIが英語と「やさしい日本語」で自動回答。知りたいキーワードを入力するだけで、すぐに必要な情報が手に入れられます。
カテゴリーは「教育・子育て」「国際・文化」「医療・病院」「各種手続き(税金・保険・年金)」「観光」「町会等」の8つ。このほか、日本ならではの生活習慣や文化の違いなどの情報もあり、外国人の地域への愛着推進や地域社会への参画を促していきます。
参考:地方自治体における AI・ロボティクスの活用事例(p4)
3-5.【埼玉県】AI救急相談
出典:(参考)埼玉県AI救急相談の概要|三郷市
急な病気やケガの際に「家庭でどう対処すればいいの?」「医療機関を受診すべき?」と悩むことがありますよね。そんな時にチャット形式で気軽に相談できるのが埼玉県の「AI救急相談」です。
AI救急相談では基本情報を選択した後、チャット形式で相談内容を入力すると、可能性のある症状を案内してくれます。症状について緊急度の判定がされるので受診の目安になるでしょう。ただし結果の内容は医師の診断によるものではなく、アドバイスにすぎません。医療機関の受診や救急車の利用は自己判断で行いましょう。
AI緊急相談をスマートフォンから利用していると、チャット画面から埼玉県救急電話相談や119番への通話も可能。チャットでの相談内容を埼玉県救急電話相談の相談員に引き継ぐこともできるので心強いですね。
参考:埼玉県AI救急相談
チャットボット選定で“絶対に外せない”3つの確認ポイントとは?
本資料(無料 eBook)をご覧頂ければ、以下の事がスムーズに出来る様になります。
- 選定候補のAIチャットボットを客観的に比較する事
- 実機トライアルで準備・確認すべき事
- 自社に最適なサービスを見つけ、失敗せずに導入する事
4. 自治体のチャットボット活用事例|子育て支援2事例
ここでは自治体のチャットボット活用事例の中でも子育て支援に特化した2つの例をご紹介します。
- ①【愛知県春日井市】自動応答サービス「教えて!道風くん」
- ②【栃木県宇都宮市】子育ての疑問をLINEで24時間回答
4-1.【愛知県春日井市】教えて!道風くん
出典:自動応答サービス「教えて!道風くん」|春日井市公式ホームページ
愛知県春日井市の自動応答サービス「教えて!道風くん」は、未就学児の子育て支援に特化したチャットボットとして導入されました。
使い方はとても簡単で、市のマスコットキャラクター・道風くんが提示する選択肢から知りたいことを選び続けるだけでOK。もちろん、知りたいことを直接質問することもできます。
同サービスの特徴は、子どもの医療費助成から子育て支援などの多くの質問に対応していることです。「保育園に申し込み後、家庭環境に変化があったらどうすればいいの?」「保育園に行くときに用意するものは?」などの疑問が24時間365日解決できます。
現在では、未就学児の子育て支援のほか、住民情報・戸籍・マイナンバーに関する質問にも対応しています。
参考:
自動応答サービス「教えて!道風くん」|春日井市公式ホームページ
春日井市 子育てに関する問合せにLINEで回答|PR TIM
4-2.【栃木県宇都宮市】教えてミヤリー
出典:LINEで24時間回答「教えてミヤリー」|宇都宮市公式Webサイト
「共働き子育てしやすい街ランキング2018」で全国1位を獲得した栃木県宇都宮市では、子育て関連のチャットボット「教えてミヤリー」を導入しています。子育てに関連する問い合わせにAIがLINE上で自動回答する仕組みです。
▼ミヤリーで対応可能な内容一例
- こども医療費助成の手続きについて
- 情報交換できる子育て仲間が欲しい
- 病気の子どもを一時預かりできる施設について
- 申請に必要なものや手続きの仕方について
- 子育て広場や子育てサロンの紹介
教えてミヤリーを利用することで、電話での問い合わせやWebサイトを検索する手間が削減できます。忙しい子育て世帯にとっては、とても便利で嬉しいサービスですよね。
参考:
LINEで24時間回答「教えてミヤリー」|宇都宮市公式Webサイト
広報うつのみや 2019年12月号 No.1724
5. 自治体のチャットボット活用事例|観光・PR3事例
ここでは観光に特化した自治体のチャットボット活用事例を取り上げます。
ご紹介するのは、以下の3事例です。
- ①【14自治体合同】明智光秀AI
- ②【福井県永平寺町】観光案内多言語AIコンシェルジュ
- ③【北海道函館市】外国人観光客の旅行全般に関する質問にWeb上で自動応対
5-1.【14自治体合同】明智光秀AI
出典:明智光秀AI
明智光秀公にゆかりのある14自治体が合同で行う観光PRとして、LINEの公式アカウントでAIチャットボットを導入しました。公式アカウントを友達登録すると、AIチャットボットの明智光秀と会話ができ、観光情報を教えてもらったり、雑談を楽しむことができます。
2020年4月時点で登録者数4万人を超える人気アカウントとなっており、メディアでも大きな注目を集めました。
明智光秀AIの大きな特長が「謎解き」のサブコンテンツです。謎解きを選択すると、AI明智光秀から謎解きクイズが出題されるもので、1万人を超える人が挑戦しています。
謎解きは明智光秀とゆかりのある地域にまつわる問題が出題され、現在では「岐阜編」「滋賀編」が実装済みです。観光客の誘致の効果も期待できそうです。
▼明智光秀AI協議会 加盟自治体(加盟順)
福知山市、亀岡市、可児市、大津市、岐阜市、長岡京市、滋賀県、恵那市、南丹市、京都市、近江八幡市、土岐市、京丹後市、福井県(加盟順) |
参考:
LINE「明智光秀AI」の提供が開始されました/近江八幡市
『GWは謎解きにあり!』LINEでできるAIチャットボット「明智光秀AI」から滋賀編「謎解き」を出題開始!|PR TIMES
5-2.【福井県永平寺町】観光案内多言語AIコンシェルジュ
出典:永平寺町観光案内所 | PDC
福井県永平寺町は主要観光地「大本山永平寺」付近に、観光案内多言語AIコンシェルジュを導入しています。対応言語は日本語、英語、中国語、韓国語となっており、各種言語で質問すると、作務衣姿のキャラクター・小梅ちゃんが音声や画像、文字で答えてくれる仕組みになっています。
永平寺や周辺の観光スポットだけでなく、飲食店や物産展などのおすすめ店舗なども、利用者のニーズに合わせて教えてくれるのが嬉しいですね。
- 年間約100万人もの観光客が訪れているが、観光案内所が未整備
- 外国人訪問客の割合が増加しているが、多言語に対応した人材確保は難しい
- 常時雇用と比較してランニングコストが抑えられる
- 分析機能(アクセス解析、来客者数、来客者性別、管内行動解析sなど)により統計や集計、外部機器との連携ができる
参考:地方自治体における新たな技術の活用状況について(p12)
5-3.【北海道函館市】外国人観光客の旅行全般に関する質問にWeb上で自動応対
北海道函館市では、市の公式観光情報サイト「はこぷら」の外国語ページにAIチャットボットを設置。英語、中国語繁体字と簡体字、韓国語に対応して、外国人観光客の旅行に関する質問に自動応答します。複雑な質問には有人に切り替えて対応します。
AIチャットボット導入により、これまで外国人観光客向けに開設していた観光案内センターを廃止。リアルタイムに近い形で必要な情報を提供することが地域のPRにつながるとしています。
参考:北海道ニュースリンク
6. 自治体がチャットボットを活用するために押さえておくべきポイント
ここまでお読みいただいて、自治体の業務とチャットボットの相性の良さがご理解いただけたかと思います。
本章では自治体がチャットボットを活用するために押さえておくべきポイントを3つお話します。
- ① 導入目的を明確にする
- ② FAQデータをゼロから作らない
- ③ 職員が運用してから住民に公開する
上記の3つを踏まえた上でチャットボットの本格導入を進めると、失敗のリスクが減らせるでしょう。
6-1.導入目的を明確にする
1つ目のポイントは、チャットボットの導入目的を明確にすることです。
チャットボットを導入すること自体が目的となってしまうと、期待した効果が得られない可能性が高まります。
たとえば、住民の利便性向上のための問い合わせ先としてチャットボットを導入したのに、AIのFAQに不足があれば「一部の質問にしか答えられない」「すぐに窓口を案内される」などの問題が起こります。これでは住民は知りたい情報が得られず不満がたまりますし、情報取得のために問い合わせをしなければいけません。
せっかく導入したチャットボットも、目的に応じた内容にしないとまったく意味のないものになってしまので注意しましょう。
6-2.FAQデータをゼロから作らない
2つ目はFAQデータをゼロから作らないことです。FAQとはよくある質問とその回答を集めたものです。チャットボットの基盤となる情報になります。この部分をゼロから作るとなると、かなりの時間と労力がかかります。
この問題を回避する方法は以下の2つです。
- ① チャットボットを導入済みの自治体からFAQ情報を提供してもらう
- ② 自治体FAQデータを多数持つチャットボットサービスを利用する
いずれか方法をとると、時間と人的コストが大幅に削減できます。
自治体におすすめのチャットボットサービスについては次章でご紹介します。
6-3.職員が運用してから住民に公開する
3つ目のポイントは、チャットボットは必ず職員が運用してから住民に公開することです。
職員が実際に一定期間使用することで、使い勝手を確かめることができるだけでなく、初期不具合の発見にもつながります。
一般に公開した後に修正・調整すると、サービスの停止や利用方法の変更などが起こる可能性があり、住民の混乱も招きやすくなります。
そのため職員が住民の目線になって「使いにくい点はないか」「ストレスになる操作はないか」を事前にチェックすることが大切になります。
7. 自治体向けチャットボットのおすすめサービス5選
チャットボットサービスは多くの会社から提供されていますが、自治体で導入する場合には「自治体に強い」会社やサービスを選ぶことが重要です。
本章では自治体向けにおすすめのサービスを厳選して5つご紹介します。
7-1.【株式会社三菱総合研究所】AIスタッフ総合案内サービス
株式会社三菱総合研究所の「AIスタッフ総合案内サービス」は自治体に特化したチャットボットサービスです。自治体の制度や手続きに関する質問など、30分野以上に対応可能なチャットボットとして人気があります。
同社のサービスの特徴は、全国35自治体の意見が反映されている点です。
2018年10月より多くの自治体で実証実験が行われており、2020年4月時点で12自治体で本格的に導入されています。
情報を多くの自治体と共有することで、AIの学習スピードが上がりますし、改善ポイントが明確になります。サーバーなどの設定が不要な上、標準のテンプレートが用意されていることから導入・運用も楽に行えます。
7-2.【日本電気株式会社(NEC)】地方公共団体との共創「みんなで育てる」AIチャットボット
出典:AI技術を活用したチャットボット NEC 自動応答: ソフトウェア | NEC
NECは自社のAIチャットボットサービス「NEC自動応答」を全国の地方公共団体向けに期間限定で無償提供し、チャットボットの高度化に取り組んでいます。
複数の自治体がQ&Aデータを登録・管理し、その回答が適正かどうか判断することで、チャットボットを育成していきます。問い合わせに関するQ&Aだけでなく、職員のノウハウも共有することで、チャットボットの実用性の向上を目指します。
この取り組みには、全国50以上の地方公共団体が参加し、2019年12月の時点でQ&Aデータは6,000件以上蓄積。かなり信頼性が高いチャットボットといえるでしょう。
参考:
地方公共団体との共創 「みんなで育てる」AIチャットボット|NEC
NEC、全国50以上の地方公共団体とチャットボットを共創|NEC
7-3.【NTTコミュニケーションズ】COTOHA Chat & FAQ
出典:Semantic Search Engine COTOHA Chat & FAQ®
NTTコミュニケーションズの「COTOHA Chat & FAQ」は、チャットに入力された「質問の意味」を理解し、適切なFAQを自動表示するAI搭載型のチャットボットです。埼玉県庁や東京都福祉保健局などで活用されています。
13言語へのリアルタイム翻訳が可能で、25言語に対応しています。未解決の質問内容をAIが自動分類し、分析結果をもとにFAQの追加修正も可能です。豊富なFAQテンプレートが用意されているので、FAQデータがない場合でもすぐに導入できます。
参考:
Semantic Search Engine COTOHA Chat & FAQ® | NTTコミュニケーションズ
導入事例 埼玉県庁 | NTTコミュニケーションズ
7-4.【株式会社ALBERT】スグレス
出典:スグレス | AIを搭載した高性能チャットボットサービス | 株式会社ALBERT
東京都渋谷区、熊本県、福岡県宮若市などで活用されているのが、株式会社ALBERTが提供する「スグレス」です。
オリジナルの自然言語処理エンジンが搭載されているので、利用者の質問の意図を瞬時に判断し、適切な回答を提示できます。対応言語は日本語と英語。サポート機能が充実しているので、導入前はもちろん、チャットボット導入後の運用アドバイスも受けられます。
LINEやMicrosoftTeams、Slackなどとの連携も可能です。
参考:スグレス | AIを搭載した高性能チャットボットサービス | 株式会社ALBERT
7-5.【株式会社ActiValues】talkappi
出典:ホテル・旅館・自治体向け多言語対応チャットボットtalkappi
株式会社ActiValuesが提供するチャットボット「talkappi」には、観光分野に特化した最先端のAI技術が採用されています。導入時点からFAQの自動応答率96%を実現するなど、AI精度の高さに定評があります。
▼talkappiの特長
- 即答できないFAQに対しては24時間自動受付、施設側に即時通知
- 館内施設や周辺レストラン、観光・体験情報を自動案内
- 予約確認、忘れ物対応、記念日手配など従来の受付業務をAIが担う
- 訪日外国人旅行者90%の言語をカバー
- 20ヵ国以上の外国語に対応
- 公式アプリ、LINE、Facebook、WeChat 200施設以上の連携実績あり
参考: ホテル・旅館・自治体向け多言語対応チャットボットtalkappi
7-6.導入済の自治体に問い合わせるのもおすすめ
どのチャットボットサービスが良いか判断に迷ったら、すでにチャットボットを導入している自治体に問い合わせるのもおすすめです。
チャットボットの導入は一見ハードルが高いように感じられますが、実際に活用している自治体の話を聞くことで「何をすべきか」「どのチャットボットサービスを選べば良いか」イメージしやすくなります。
自分たちの導入目的に近い自治体から情報を得ることで、チャットボットサービスもスムーズに選ぶことができるでしょう。
8. チャットボットを導入した自治体が注意すべきこと2つ
最後に自治体がチャットボットを導入する際に注意すべきことを2つご紹介します。
8-1.定期的に更新する
チャットボットは導入して終わりではなく、定期的な更新が必要です。
具体的には行政や制度情報の内容がアップデートされているか、URLのリンクが切れていないかの確認が求められます。登録した情報が常に最新のものでなければ、住民にとって良いサービスを提供しているとは言えません。
チャットボット利用者の満足を高めるためには、定期的な更新と運営の維持が重要になります。
8-2.費用をしっかり確認しておく
2つ目の注意点は費用をしっかり確認しておくことです。
自治体がチャットボットを導入するときにかかる費用は、一般的に年間100万~1,000万円程度とされています。費用は製品や機能などによって異なりますが、中にはチャットへの質問数やサイトの訪問数によって変動する場合もあります。
導入前に料金体系をしっかり確認しておかないと、当初の予算を大幅に超えて運営が維持できないという恐れもありますので気をつけましょう。
まとめ
この記事では、自治体がチャットボットを導入するメリットや自治体の導入事例などについて詳しく解説しました。
最後に記事のポイントをおさらいしましょう。
5つのメリット
自治体がチャットボットを導入する理由は、以下の5つのメリットが得られるからでしたね。
- 比較的導入しやすい
- 24時間365日対応できる
- 人件費削減につながる
- 多言語に対応できる
- 住民の満足度向上が期待できる
業務例
地方自治体がチャットボットを導入している業務例は以下の通りです。
- チャットボットによる行政サービスの案内
- 多言語AIチャットボットサービス
- LINEを活用した対話型サービス
- 子育て相談のためのAIを活用したチャット窓口の開設
- 観光・文化・都市経営情報の総合窓口コンシェルジュ
- AIを活用した移住・定住に関する自動対話型のFAQ機能
出典:地方自治体におけるAI・RPAの 実証実験・導入状況等調査(p7)
自治体のチャットボット活用10事例
問い合わせ・サービス
- 【福島県会津若松市】LINE de ちゃチャット問い合わせサービス
- 【神奈川県横浜市】イーオのごみ分別案内
- 【神奈川県海老名市】WebとLINEの双方で導入
- 【東京都港区】多言語AIチャットサービス
- 【埼玉県】AI救急相談
子育て支援
- 【愛知県春日井市】自動応答サービス「教えて!道風くん」
- 【栃木県宇都宮市】子育ての疑問をLINEで24時間回答
観光・PR
- 【14自治体合同】明智光秀AI
- 【福井県永平寺町】観光案内多言語AIコンシェルジュ
- 【北海道函館市】外国人観光客の旅行全般に関する質問にWeb上で自動応対
チャットボットを活用する為の3つのポイント
自治体がチャットボットを活用するためにおさえておくべき3つのポイント
- 導入目的を明確にする
- FAQデータをゼロから作らない
- 職員が運用してから住民に公開する
自治体向けチャットボット5選
自治体向けチャットボットの5つのおすすめサービス
- 【株式会社三菱総合研究所】AIスタッフ総合案内サービス
- 【日本電気株式会社(NEC)】地方公共団体との共創「みんなで育てる」AIチャットボット
- 【NTTコミュニケーションズ】COTOHA Chat & FAQ
- 【株式会社ALBERT】スグレス
- 【株式会社ActiValues】talkappi
自治体向けチャットボットサービスについては、すでにチャットボットを活用している自治体にヒアリングするのも良い手段です。
この記事があなたの自治体でチャットボットを導入すべきか、または見送るべきかの判断の一助となれば幸いです。
参考書籍:『自治体職員のための 入門 デジタル技術活用法』狩野英司(著)